恒等式の未定係数法
式と証明(教科書範囲) ★★

恒等式の未定係数を決める問題について扱います.
ちなみに分数式の問題に特化した内容は部分分数分解の主要パターンで扱います.
等式の種類と恒等式の性質
等式の種類
等式には,2種類あり,それに名前がついています.
恒等式:文字にどのような値を代入しても,両辺の値が存在する限り常に成り立つ等式(言い換えると式変形で導かれた等式).
例
$3x+2x=5x$
方程式:文字を含む等式が,その文字の恒等式ではない等式.
例
$3x+2x=5$
恒等式の性質
恒等式の性質
$a_{n},a_{n-1},\cdots ,a_{0}$ を定数とする.
$a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_{1}x+a_{0}=0$
が $x$ についての恒等式ならば
$a_{n}=a_{n-1}=\cdots =a_{0}=0$
恒等式の性質の証明
Twitterのフォロワーさんに教えていただきました.数学的帰納法と微分を使いますので初学者は無視してください.
証明
$n$ に関する数学的帰納法で示します.
(ⅰ) $n=0$ のとき
$a_{0}=0$ となるので成立
(ⅱ) $n=k$ のとき成立を仮定.
$n=k+1$ のとき
$a_{k+1}x^{k+1}+a_{k}x^{k}+\cdots+a_{1}x+a_{0}=0 \cdots$ ①
両辺微分すると
$(k+1)a_{k+1}x^{k}+ka_{k}x^{k-1}+\cdots+a_{1}=0$
仮定より
$(k+1)a_{k+1}=0$,$ka_{k}=0$,$\cdots$,$a_{1}=0$
すなわち
$a_{k+1}=0$,$a_{k}=0$,$\cdots$,$a_{1}=0$
これを①に代入すると $a_{0}=0$.よって $n=k+1$ のときも成立.
(ⅰ)(ⅱ)よりすべての自然数 $n$ において成立する.
※ 随時証明を募集していますので,Twitterにでもお問い合わせください.場合によってはこちらに掲載させていただきます.この他にも,対偶を示す方法(代数学の基本定理を使う)などがあるようです.
恒等式の未定係数法
例えば
$x^{2}+x+1=a(x-1)^{2}+b(x-1)+c$
のように,恒等式の中に未知の係数がある場合,一般的に次の方法で未定係数を求めます.
ポイント
恒等式の未定係数法
Ⅰ 係数比較法
$a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_{1}x+a_{0}=b_{n}x^{n}+b_{n-1}x^{n-1}+\cdots+b_{1}x+b_{0}$
が $x$ についての恒等式ならば
$a_{n}=b_{n},\cdots,a_{1}=b_{1},a_{0}=b_{0}$
が成り立つことを利用して解く.
Ⅱ 数値代入法
未知の係数が定まるまで,文字に数値を代入する.
その後,定めた数値を元の係数に代入したとき,恒等式になっていることを確認する.
※ 基本的には特定の値を代入して成立するだけでは,すべての $x$ について成立することは言えないので恒等式になることの確認が必要です.
※ ただし,次数より多くの値を代入して得られたものは恒等式として成立するので,数学的には逆の確認が不要です.
Ⅰは恒等式の性質が成り立つことを利用して簡単に導けます.
どちらでも解けますが,数値代入法は恒等式になることの確認が注意です.つまり,未定係数を出す労力が同じくらいならば係数比較法で出す方が無難です.
例題と練習問題
例題
例題
$x^{2}+x+1=a(x-1)^{2}+b(x-1)+c$
が $x$ についての恒等式であるとき,定数 $a$,$b$,$c$ の値を求めよ.
講義
係数比較法,数値代入法の両方の解答を載せます.
係数比較法での解答
右辺を展開すると
$x^{2}+x+1=ax^{2}+(-2a+b)x+a-b+c$
係数を比較すると
$\begin{cases}1=a \\ 1=-2a+b \\ 1=a-b+c \end{cases}$
$\therefore \ \boldsymbol{a=1,b=3,c=3}$
数値代入法での解答
両辺に $x=1$,$0$,$2$ を代入すると
$\begin{cases}3=c \\ 1=a-b+c \\ 7=a+b+c \end{cases}$
$\therefore \ a=1,b=3,c=3$
2次の整式に対して異なる3個の値を代入して成立するので,与式は $x$ についての恒等式である.
$\therefore \ \boldsymbol{a=1,b=3,c=3}$
練習問題
練習
$x$ についての恒等式であるとき,定数 $a$,$b$,$c$ の値を求めよ.
(1) $2x^{2}-7x+c=a(x-1)^{2}+b(x+3)+8$
(2) $x(x-1)(x-2)+a(x-1)(x-2)+b(x-2)+c=x^{3}$
(3) $\dfrac{4x+3}{(x+2)(2x-1)}=\dfrac{a}{x+2}+\dfrac{b}{2x-1}$
練習の解答
(1)
右辺展開して両辺係数比較すると
$\begin{cases}2=a \\ -7=-2a+b \\ c=a+3b+8 \end{cases}$
$\therefore \ \boldsymbol{a=2,b=-3,c=1}$
(2)
両辺に $x=2$,$1$,$0$,を代入すると
$\begin{cases}c=8 \\ -b+c=1 \\ 2a-2b+c=0 \end{cases}$
$\therefore \ a=3,b=7,c=8$
逆にこのとき
$x(x-1)(x-2)+3(x-1)(x-2)+7(x-2)+8$
$=x^{3}-3x^{2}+2x+3x^{2}-9x+6+7x-14+8$
$=x^{3}$
より与式は恒等式.
$\therefore \ \boldsymbol{a=3,b=7,c=8}$
(3)
両辺 $(x+2)(2x-1)$ 倍すると
$4x+3=a(2x-1)+b(x+2)$
右辺展開して両辺係数比較すると
$\begin{cases}4=2a+b \\ 3=-a+2b \end{cases}$
$\therefore \ \boldsymbol{a=1,b=2}$
※ 左辺を右辺のように分解することを部分分数分解といいます.詳細は部分分数分解の主要パターンで扱います.